流麗なストローク、川のせせらぎを感じさせる声

気が感動のお花見 大和麻弥 コスプレ衣装付けば六花は、拍手をしていた。「本当にカーペンターズみたいだね。なんでそんな綺麗な声が出るの?」「そんなこと言われても……先天的なものだからなあ」すけこましはギターを部屋の片隅に置いた。決してボディーに傷がつかぬように、慎重に床に下す。まるで老人を労わるかのようだった。儚い印象を受けたのは、弾いているときの所作に起因する。流麗なストローク、川のせせらぎを感じさせる声。なにより、どこか浮世離れした瞳。その目だけでも充分に魅せられた。中世的なルックスで奏でられる音楽は、至高といえる。きっと、試行錯誤したのだろうと、六花はあれこれ想いを馳せた。「いいなあ……私、歌うのは苦手で」「なんで?」「緊張するじゃない。人前で歌うの」「そんなもんかなあ」能天気なすけこましだと分からない。首が座っていない赤子のように、左右に首をゆらゆらと揺らしながら、なにも考えてないような表情を浮かべていた。なにを考えているか分からないから、知りたい、もっと紐解きたい。そんな欲求が六花の心の中で小さい竜巻のように渦を巻く。「眼鏡を取れば?」「へ?」などと言っている間に、すけこましはヒョイッと六花の眼鏡を取ってしまった。「な、なにしよっと!」「うわ、度がキツイな。白内障になるよ」余計なお世話だっつの!ギリギリのリーチで、眼鏡まで届かない。表情を変えないまま、すけこましは自分でかけたり、外したりしていた。特待生で上京するために、視力は犠牲にした。ほぼ昼夜問わず勉強、ギター、バイトのトライアングルを行ったりきたりしている。何故そこまでして打ち込めるのか定かではない。二人の約束 氷川 紗夜 コスプレ衣装ただ、我武者羅でもむちゃくちゃでもやれば成果が出るという、性善説を信じて止まないからかもしれない。そして、すけこましはこんなことを言いやがるのだった。「眼鏡取ると可愛いね……なんでぶーたれているの」「別に」「照れてるの?」すけこましの辞書に遠慮という二字熟語はない。ついでに配慮という熟語もない。少しくらいは察してほしい。六花自身が、「ああ、そうですよ照れていますよ」と言えればどれだけ楽だろう。顔を赤くしてうつむく。